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ほら、やると言われ、ゴールドに輝くプラスチック製の名刺を手渡され、そこに書いてあった肩書きにしばし固まってしまった。
《龍一家若頭補佐 卯月 遥琉(はる)》
彼が社長をしているという、やない企画という会社は、橘さんの説明では、龍一家のフロント企業で、消費者金融と貸ビルを経営しているみたい。
普通ならぜったいに会わない。一生関わらないであろうヤの付く人物が、なぜかうちの中にいる。しかもさっき会ったばかりの一太の面倒をみながら仲良くお弁当を食べている。
目の前に広がるありえない光景に、いまいち状況を飲み込めずにいて。
唖然としていると橘さんに声を掛けられた。
「彼、あぁ見えて、保育士の免許を持っているんですよ。そのくらい無類の子供好きなんです。まぁ、顔は恐いですけど。どうしても家業を継がないといけない事情が出来て」
見た目と中身のギャップのあまりの差に驚いて、返す言葉が見つからない。
「未知は食べないのか?」
4畳半ほどの狭い和室から卯月さんの声が飛んできた。
「私の夕飯の心配は無用ですから」
橘さんに言われ、洗い物をしていた手を止めた。
「代わりに洗っておきますから」
申し訳ないと思いながら言葉に甘える事にした。一太の隣に腰を下ろすと、卯月さんが唐揚げを箸で摘まみ、ほら食え。ぶっきらぼうに言って口の中にぐいっと押し込まれた。
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