取り返しのつかない過ち

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「悪いと思ったけど、あなたのこと調べさせてもらったわ。あなたや一太の出生のことを知って、最初信じられなかったけど・・・まさか、そんなことが起こるなんて・・・そのせいで喋ることが出来なくなったって知って・・・私だけじゃなかったのね。あなたも辛かったのにね。信じていた人に裏切られて。今頃、高校生として青春を謳歌してるはずだったのにね・・・」 話しながら次第に声が小さくなっていった。 「ある日、茨木さんが家を訪ねてきたの。父は彼の顔を見た途端驚いていた。それで初めて知ったの、彼が祖父だということを・・・私の将来を考え、母と同じ目に合わないようにするために父に預けたことを・・・あなたも同じことを言われたと思うけど、虐待の連鎖をどこかで止めなきゃいけないんだ。このままいったら、おそらく一太も性暴力の被害者になる。そうなる前に何とかしなきゃならない。悲劇を、過ちを二度と繰り返さない為にも、未知には遥琉が必要なんだ、そう言われてね、頭を下げられてね・・・」 秦さんは唇を噛み締めるとそこで口ごもった。 やや時間をおいて、一旦、目を閉じ、一つ深く深呼吸すると静かに言葉を続けた。 「だってあなたと一緒にいる遥琉、すごく楽しそうで。あんな笑顔の彼はじめて見た。一太にパパって呼ばれて、すっごく嬉しそうにしてて・・・顔は怖いのにね、一太は怖がることなく懐いて、パパ、パパって・・・素直でいい子よね、一太・・・彼から遥琉を取り上げるわけにはいかないでしょう。お腹の子から父親を奪うわけにはいかないでしょう。私も父親がいなくて寂しかったから、同じ思いをその子にさせたくないの」 最後は涙声になっていた。 「だから、離婚に応じたの。遥琉を誰よりも愛してるからこそ、未知、あなたや一太に託そう、そう決心した・・・ごめんね、泣くつもりなかったにね」 涙を流しながら、嗚咽を漏らしながら秦さんは言葉を続けた。 気付けば、僕も泣いていた。
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