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「いつまでぼぉーとしてんだ。一太、腹が減ってるんだぞ。飯食いに行くぞ」
知らない誰かに連れ去られたとき、あれほどギャン泣きしていた一太。
殺されるかもしれないと血眼になり必死に探し回ったのに。あまりにも元気な姿に拍子抜けしてしまい呆気にとられていた僕に、卯月さんの少し苛立った声が飛んできた。
「たく、貴方は。一太くんには甘いくせに。大丈夫ですか?」
彼の側にいた橘さんが、道路を横切り駆け寄ってくれた。
「あとでちゃんと説明します。とにかく、行きましょうか?卯月は待たされるのが嫌いなので」
大きく頷き、橘さんの後ろに付いていった。辺りを警戒しながら、近くに停車してあった黒いセダンの所に着くと、先に歩き出していた二人にようやく追い付く事が出来た。
「未知、一太のオムツと着替えは?いっぱい泣いたから汗びっしょりなんだ。このままだと風邪をひくから」
彼に言われ、颯人さんの車にすべて置いてきた事を思い出した。
「しゃあないな。店に寄ってから行くか」
一太を抱っこして後部座席に乗り込む卯月さん。
「子守りは彼に任せて、さぁ、どうぞ」
橘さんが助手席のドアを開けてくれて、促されるまま乗り込んだ。
「一太、お利口さんにして乗ってないと、お巡りさんに捕まるからな」
「うん!」
「ついでにチャイルドシートも買わないとな」
上機嫌の卯月さんに、橘さんは終始苦笑いを浮かべていた。
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