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連は髪をぐしゃぐしゃとかきむしって、叫んだ。ランニング中の年寄りが驚いて振り返ってくるのに、いらいらと睨みかえした。
(颯太は、俺の気持ちをわかっててやったのか? だとしたら、俺は)
ビニール袋の中にある包丁をのぞき込む。
告白をされ、舞い上がっていた姿を颯太はどんな思いで見ていたのだろう。
ひどいことをしたと、罪悪感に駆られただろうか?
ノンケの颯太が、男相手に告白だなんて、絶対にありもしないのに。信じてもいない神に感謝して跪く姿を、哀れだと嗤っていたのだろうか。
連はじわりと目尻が滲んでくるのに、シャツの袖で乱暴に擦った。二十二になって、失恋で泣くなんて思ってもみなかった。
颯太との偽りの恋人生活は、三週間ほどだった
手を繋いだり、キスをしたりなんて恋人らしい行為は何一つなかったが、肩を寄せて隣を歩いているだけで、連は幸せだった。
誰かに恋をしても、実る可能性は低いと思っていた。
だから、颯太への思いも友達のままにしておこうと固く誓っていたのだ。
告白して嫌われるならば、まだいい。軽蔑されたり馬鹿にされたり、一瞬でも好きになった相手に踏みつぶされるのはとても辛い。
(馬鹿だよなぁ、俺。どうして、信じたりしたんだよ。どうして、奇跡だって思ったんだろうな。……都合が良すぎるよ)
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