第二章 年送りの炎

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第二章 年送りの炎

 鶴亀の里に木の葉が舞い散り、ちらちらと雪が降る日が多くなって『年』が変わる時期がやって来た。 『年』というのは、豫国の始祖たちが秘伝として西方から持ってきた『暦』と呼ばれるものから導き出される考え方である。月や太陽の動きから導き出され、農作物の種まきや収穫の時期をはじめあらゆる吉凶を判断できる暦は、豫国では巫女団が独占としている秘法だった。簡単に言うと、季節の一巡りによって一つの年と数えていくものである。 この時期になると、里では年送りと年迎えという儀式が厳かに行われる。春迎えほどの華やかさはないが、その分一年の内で最も厳粛で格の高い儀式であった。  誰もが儀式のせいでそわそわし始めるこの時期に、ナルには恐ろしい災難が降りかかっていた。 「どうして、私が!」  という言葉は実際には口から出ていない。あまりにもその事実が信じがたいので、そう思いながらも絶句しているのだ。  実際、ナルにその事を伝えに来たレイも、伏し目がちな目をさらに伏せ、気の毒そうに友人にかける言葉が探している。  ナルは顔を青くし、ぐっと目をつぶった。  確かに悪い予感はしていたのだ。 自分は毎日、禊ぎも祈りも、他の者よりもずっと努力しているつもりだったが、それでも巫女として霊感と呼ばれるものは未だ目覚めてはいない。自分と同年代のレイとタキなどは、ククリが倭国に旅立ってしばらくした頃に、覚醒し始めた。不思議な声を聞き、明日の天気をどんどん当てだし、一人前の巫女へと近づいていった。  姉がいなくなり、古くからの友人と言葉にならぬ距離ができ、このままではいけないと奮起していたところに今回の報せが舞い込んできたのである。 「まさか、よりにもよってイワナが私の指導役になるなんて」  絶望するなと言う方が無理である。ナルは頭を抱えてその場に蹲った。  巫女団では年少の頃は皆同じような学びをするのだが、ある程度の年齢になると指導役と呼ばれる先輩巫女と組んで教えを受ける仕組みになっている。  当然、教えを受ける側にしてみれば、優秀でその上余り厳しくなく、おまけに人柄のよい指導役に当たればいう事は無い。だから年少の巫女たちの中には、普段からそういう人気の高い年長巫女に気に入られようと、売り込みをしている者も少なくなかった。
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