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ある日、私は事故を起こした。
ブラックアイスバーンに気が付かず、前を走っていた彼が滑り出したことに気付いた時には、もう手遅れだった…。
これを思い出したのも、つい最近のことだったなぁ。
事故で脳を損傷し、数年の記憶を失った私は、動かなくなった体のリハビリに励んでいた。
その頃になって、入院し始めた時にいた看護師さんが、他の患者さんの方を担当するようになっていた。
私は、何かはわからないが、あの看護師さんに、独特の感覚を抱いた。
何とも言えない感覚だった。
言うなれば、嫉妬に近かったかもしれない。
憧れともとれたかもしれない。
ただ、あの綺麗な看護師さんが、異様に気なった。
離れてしまったから。余計だ。
そういえば、私の彼氏だったという人は、私が大好きだった、ミニの写真を見せてきた。
私は、ミニで事故を起こしたのか…。
そもそも、ミニのオーナーになったことを覚えていなかった。
でもそうか…せっかく、大好きな車のオーナーになれていたのに、自分で車つぶしちゃったんだ。
今、私の車はどこにあるのだろう。
リハビリも順調に進み、普通に動けるようになった私に、医師がメモを渡してくれた。
「あなたの、彼氏さんが、あなたが外に出れるようになったら、これを渡してくださいと」
「え…?」
『きっと、君が回復すると信じて────
覚えているかは分からないけど、下記の住所に行ってくれ。
公共交通機関を利用して。
君の失ったものが、そこにはある。
────そこから更に、君の失ったものを見つけられるかもしれない』
私は、すぐに準備をして、書いてあった住所へ向かった。
「おっ。久しぶり。覚えてはないかなぁ。」
「……」
「こっちにおいで。いいものを見せてあげるから」
そこには…
ずっと憧れていた、ミニが座っていた。
「君の彼氏さんが、これを修理するように頼んだんだ。彼氏さんが自分でお金払ってくれたんだよ。さぁ、これが鍵だ。乗ってごらん」
「…ありがとうございます」
運転席に座った瞬間、頭の中で何かが動いた。
何がどうなったのかは分からないが、とにかく、いつぶりかに、笑った。
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