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そういえば…。
「あの…」
閉まるドア。
言えなかった、言葉。
カノジョはなんと言おうとしたのだろう。
私が、引き止めてまで、言いたかったこと…。
逃げるように、去ってしまった。
「あの時、なんて言おうとしたのかなって。少し後悔してるんだ。逃げたこと」
「カノジョさんはね…ありがとうってお礼と、さようならって、言おうとしたんだよ」
「さようなら…?」
お礼は、そのあと直接言われた。
でもさようなら、か。
なんていうか、寂しいものだな。
直接言われなくてよかったかもしれない。
「カノジョさんなりの配慮だよ。記憶を忘れてしまったから、あなたに次の恋愛に未練なく行って欲しかったんだよ。だから冷たく言い放とうとした…」
「…っ」
────さようなら。
私は自分のミニのステアリングを握る。
全て明かされた。
そして思い出した。
もう後は長くない。
彼を愛していた。
この車を愛していた。
彼と、色々なところへ…。
「楽しかったね、アウトレットモール」
「…あ、あぁ。良かった」
私がね。
私が一番、楽しかったのは、あなたの車の助手席に座って、色々なところへ行ったことかな。
二台で走るのも良かった。
でもやっぱり、隣同士に座って、話しながらドライブした、あの時が最高だった。
でもさ…
あなたがその時描いていたのが、私じゃなかった。
私じゃ、穴は埋められなかった。
僅かながらの敗北感が、記憶を失ってからも残っていたのかな。
少しの皮肉と、少しの嫉妬と、盛大な感謝を込めて、さようならと言い放とうとした。
さようならって、言いたかったんだよ。
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