靄々

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「何だその格好は…。ピアスを外せ。ネクタイは着けてこい。これで何度目だ」 「あぁはいスミマセン、以後気をつけますので」 ガンガンと頭を打ち付けるような苛立ちを押し殺し、優等生気取りの足止めを適当に受け流した。 突破しようとするとすぐさま副会長が俺の腕を掴んで阻止したので、それを勢いよく振り払う代わりに今度はこちらが胸ぐらを掴んで動きを封じた。 俺が力を見せつけて鋭く睨み付けてやれば、大抵の奴はそれで怖気付いて退くはずだった。 だが、目の前の男は殆ど表情を変えず「お前はいつも不満そうだな」と淡々として言う。 いかにも抵抗力の無さそうな、筋肉もない細身な体格。 思わず舐めてかかりたくなるような中性的な顔立ちは、目元のほくろが相まって何処と無く色香を纏っている。 第一ボタンすらも開けず校則通りかっちり着こなした制服姿は絵に描いたような優等生。…よりも更に味気ない。 どう考えても俺が腕っぷしでこの人に負けることはない。 この人だって、自分より体格の良い奴が殴り掛かってでも来れば対処しきれるとは思わないだろうに。 胸ぐら掴まれたこの状況下で、なんで澄ました顔してんだ。 なんで冷静気取ってんだ。 なんで優等生演じてんだ。 浮かんでは消え、また浮かんでは消したはずの苛立ちが、ふつふつとまた湧き出して止まらなかった。
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