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 今年の春に十七を過ぎたばかり。頬は丸みを帯びて未だふっくらとしているが、初潮を迎えているため、身体つきは成人した大人となんら変わりない。艶やかな濡羽色の髪を後ろでゆるく結い上げ、朱色の紅を引き、金色の鳳蝶が舞う青藍の着物を(まと)っている。  花柳街。帝都の南に位置する、湖に支配された五角形をした華の街。それが少女が住まう特別な街だった。 中央に十三平方キロメートルの淡水湖があり、渦を巻くようにそれらが四方にゆるやかに流れ込んでいる。四つの河川は水路となり、水路と水路の間には全てに漆黒の敷石が詰められ、大小様々な見世(みせ)(ひし)めき合うようにして軒を連ねる。水路は最終地点で全てが合流し、四方に連なる見世を囲うようにして五角形を描く。  南、東、北、西。それがこの街の階級だ。見世の数も、階級が下がれば下がるほど多くなり、逆に最上級の南には一軒しかない。南はその一軒のためにあるような、特別且つ未知なるもので溢れた場所でもあった。  大見世。最上級の暖かな地。妓楼(ぎろう)とは名ばかりの、南に鎮座している最高級妓楼、それが彩虹楼(さいこうろう)であった。その名の通り、七色の七つの建物で成り立っており、中央に陣取る一際高い建物は濃紺。一般の人間は敷居を(また)ぐことさえ許されていない。そこには、地上で暮らすほとんどの人間が知ることのない。 不思議な。不思議な。――秘密があるのだ。
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