壱 -1-

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 そんな折――日本は、天の神より宝刀を手にしたのだ。自ら光りを放つという、今だかつて誰も見たことがない宝刀。それは、京都北部、日本海の宮津湾へ流れ着いた。どこからやってきたものなのか傷一つ見られず、砂嘴(さし)に垂直に突き刺さっていたという。その、天から神が遣わしたという宝刀を偶然手にしたのが、たまたま傑物だった。まぁ、言ってみればそれだけのことである。  この宝刀は、日本最古と言われる神社へ一旦置かれ、その後、拾い主へと返還された。その傑物は、光りを放つという宝刀によって数年で日本を統治し、見事な日本国を形成してしまった。  それが東雲一族である。傑物の名は東雲一真(しののめかずま)。  日本が先祖返りするきっかけを作ったのもこの人物。大の日本史好き。言ってしまえば、このような簡単なこと。幼い頃より頭に思い描いていた莫迦莫迦しい夢物語を本気で実現しようと考え、本当に実現してしまった。ひとえに宝刀の威力なのだが、阿呆に持たせても何の効力もなかっただろう。  一真が行った改革により当初は起きていた反乱も、二百年も経つうちに自然になくなり、人々はすっかり着物を着る生活に慣れてしまった。むしろ、それが先祖返りだったことなど知っている者の方が少ない。  ――『(かつ)てのような、愚かな文明開化はするべからず』     
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