壱 -1-

4/5
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
 それが、彼が常々公言していたスローガンだ。部分的に過去の文明の名残が残っているところも随所にみられるが、大したことではない。何もかもが江戸の町並みのようになっているわけでは決してないが、ビルやタワーなどの高層建築は禁止され、それが許されるのは東雲一族が住まう、山のように聳える城だけであった。  そんな日本国に遊郭なるものが復活したのは、一真の息子、一寿(かずとし)が六十路を迎えた時のこと。一真が亡くなり自分も何か功績を残したいと思ったのだろう。それに加えて元来の遊び人。正妻の他に側女が十五人と言うから聞いて呆れる。  一寿は、鑑札(かんさつ)と呼ばれる札を発行し、許可を得たものだけが通えることを条件に遊郭を復活させた。と言っても、大昔のような女ばかりのものでもなく、借金の形に売られてくる、というような過酷なものではない。列記とした商売である。ここに住まうものは、一部の人間を除いて全て自らの意志でここにやって来るのだ。  給与は、一般市民平均給与の三倍。賞与は歳晩・晩春・晩夏の三回。見目により階級は自ら決めることはできないものの、大概(たいがい)の人間は一生を食うに困らず生活していけるという仕組みだ。それゆえ、若者には人気の商売だったりもする。偏見すら起こらないというのは時代ゆえだろうか。     
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!