壱 -1-

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壱 -1-

 碧空(へきくう)を割くようにして、天に聳えるほどの巨大な入道雲が南の空を陣取っていた。青々と茂った森林の隙間からは、風に乗った蝉時雨と葉擦れの音が輪唱のようにして響き、猛暑となった帝都の、繁忙とした通路に陽炎を作り出している。  地球上に存在していた機械文明が滅んで二百年と少し。すっかり先祖返りしてしまった日本では、元ある憲法を改正し『改・日本国憲法』と、何の捻りもない題名の憲法が誕生していた。  誰もが恐れていた世界大戦の勃発。その大戦の中心となったのが核兵器。日本はアメリカ傘下で戦乱を免れていたものの、日本海対岸より飛び出た核兵器により敢え無く崩壊。核は首都圏中心部に直撃し、広範囲にわたって地面を陥没させ、地下に蓄えられていた地下水が湧き出て湖になった。これにより、首都圏近郊、中心都市全ての建物が崩壊し、日本のみならず世界までもが焼け野原になった。  これが、二百年経った学校の教科書に載っている、子供たちが習う知識だ。二百年も経ってしまえば、その程度の知識しか現代人には伝わっていない。 「昔は大変だったんだねぇ」  これは、子供のみならず大人たちの素直な感想である。     
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