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壱 -2-
「いいんですか、こんなところに来ちゃって」
「野暮なことを聞くな。駄目に決まっている」
彩虹楼の北。水路、彩虹川の淵。時刻が暁九つに差し掛かった頃。いるはずのない人物が二人、建物の陰に潜んで聳える彩虹楼を見上げていた。
「ついて来た俺もどうかと思いますけど、こんなこと一清様に知れたら、どんなことになるか」
一清とは、喜寿を迎えたばかりの、老齢の一蘭の父親である。長いこと子供に恵まれなかったため、ようやく生まれた一蘭を目に入れても痛くないというほどに溺愛。ましてや溜め息が出るほどに見目麗しい外貌をしているため、一蘭自身、鬱陶しくなるくらいに過干渉なのだ。
「めんどくさいが仕方ない。見つからないようにお前が何とかしろ」
一蘭は隣で溜め息をつく男を見やると、目尻を下げて頬や手を触ってくる父親を思い出して、一緒になって溜め息をついた。
誕生日まで、あとひと月。どうしても先に風貌を見ておきたい。
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