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2月、雪サオリは小笠原にやって来た。ザトウクジラがブリーチングしてる。
「豪快なジャンプね?」
誰もいないのにしゃべってる。
鮮やかなブルーの海。船の上で気持ち悪くなり、サオリはゲロった。
父島に着くまで25時間半かかる。
サオリはCITIZENの腕時計を見た。もう4時か。
デッキから夕陽が見える。
カモメが横切る。
サオリは高菜出版で働いている。
大学卒業後、休まず頑張ってきた。
有給を取得して旅に出かけた。
『英語を死ぬ気でしゃべる』って本を読んでいた。
ここが最後尾ですか?はエズ デス ディ エナダ ラェンだ。thisはディスではなくデスって発音する。死神を意味するデスと掛け合わせ、鎌を持ったドクロが描かれている。
Cデッキ中央には船の情報ステーションがある。
氷室テツヤが仲間になった。
繊細そうな顔だ。
土産屋で洗面道具を買った。
「美しい人だ」
いきなりナンパかよ?
「おがさわら丸ってのはスゴいですね?」
「ええ」
ラウンジにシャワールーム、スナックまである。
二等船室にやって来た。
マットレスに掛毛布、枕が用意されていた。
乗るのが遅かったために船底に近い客室になってしまい、エンジン音がうるさい。
「これじゃ寝らんないよ」
竹芝桟橋を出て1時間が過ぎた。
高菜出版は汐留にある。ハウルの動くの城のからくり時計が実にユニークだ。
テツヤがやって来た。
「ソレノ丼って知ってます?」
「美味しいですか?」
「食べられませんよ、そもそも食べ物ではない」
「……」
「絶滅寸前の獣で、イスパニョーラ島やキューバにわずかに棲んでます。アメリカにも以前はいたらしいです」
摩天楼とキングコング、そんなシチュエーションか?
「それがどうかしました?」
「父島に現れたって噂です」
「ジョークでしょ?」
「僕は生まれてこの方ジョークを言ったことはない」ガーガーガー、エンジン音が「うるさい」
「ひどいなぁ」
「いえ、氷室さんじゃないです」
「あぁ、エンジン?ソレノドンは毒を持っていて、ジグザグ歩行します」
「怖いですねー?(>_<)じゃあ……」
新手のナンパの方法なのか?
午後8時近く、アナウンスが流れた。
『まもなく大島を通過します』
新島や神津島などの夜景が見える。
「神津恭介って知ってます?」
氷室が葉巻をくゆらせてる。
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