おがさわら丸

2/2
前へ
/4ページ
次へ
 2月、雪サオリは小笠原にやって来た。ザトウクジラがブリーチングしてる。 「豪快なジャンプね?」  誰もいないのにしゃべってる。  鮮やかなブルーの海。船の上で気持ち悪くなり、サオリはゲロった。  父島に着くまで25時間半かかる。  サオリはCITIZENの腕時計を見た。もう4時か。  デッキから夕陽が見える。  カモメが横切る。  サオリは高菜出版で働いている。  大学卒業後、休まず頑張ってきた。  有給を取得して旅に出かけた。 『英語を死ぬ気でしゃべる』って本を読んでいた。  ここが最後尾ですか?はエズ デス ディ エナダ ラェンだ。thisはディスではなくデスって発音する。死神を意味するデスと掛け合わせ、鎌を持ったドクロが描かれている。  Cデッキ中央には船の情報ステーションがある。  氷室テツヤが仲間になった。  繊細そうな顔だ。  土産屋で洗面道具を買った。 「美しい人だ」  いきなりナンパかよ? 「おがさわら丸ってのはスゴいですね?」 「ええ」  ラウンジにシャワールーム、スナックまである。  二等船室にやって来た。  マットレスに掛毛布、枕が用意されていた。  乗るのが遅かったために船底に近い客室になってしまい、エンジン音がうるさい。 「これじゃ寝らんないよ」  竹芝桟橋を出て1時間が過ぎた。  高菜出版は汐留にある。ハウルの動くの城のからくり時計が実にユニークだ。  テツヤがやって来た。 「ソレノ丼って知ってます?」 「美味しいですか?」 「食べられませんよ、そもそも食べ物ではない」 「……」 「絶滅寸前の獣で、イスパニョーラ島やキューバにわずかに棲んでます。アメリカにも以前はいたらしいです」  摩天楼とキングコング、そんなシチュエーションか? 「それがどうかしました?」 「父島に現れたって噂です」 「ジョークでしょ?」 「僕は生まれてこの方ジョークを言ったことはない」ガーガーガー、エンジン音が「うるさい」 「ひどいなぁ」 「いえ、氷室さんじゃないです」 「あぁ、エンジン?ソレノドンは毒を持っていて、ジグザグ歩行します」 「怖いですねー?(>_<)じゃあ……」  新手のナンパの方法なのか?  午後8時近く、アナウンスが流れた。 『まもなく大島を通過します』  新島や神津島などの夜景が見える。 「神津恭介って知ってます?」  氷室が葉巻をくゆらせてる。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加