街角は恋をする

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 けれど昨日会ったばかりの竜也とは、連絡先を交換してしまった。また会いたいという甘えた言葉に易々と乗せられていた。 「ついに九竜も収まるところに収まるか」 「相手が本当にその気なのかわからないがな」 「いつになく弱気な発言だ。本気で惚れたんだな」 「見た目がこの上なく好みなんだ」 「よっぽど美人なんだな」  見た目があれほどでなかったら、最初の接触の時点で追いかけていなかった。おそらくそのまま通り過ぎていただろう。一目見た時からひどくそそられるものがあった。だから興味を引かれて追いかけてしまったのだ。 「今日は会いに行くのか?」 「まあ」 「それなら残業せずにまっすぐ行けよ」 「え? 新しい案件、これからだろう」 「お前が午後の仕事をフルパワーでやっつけてくれればなんてことない」 「俺任せかよ」  ニヤリと笑みを浮かべて野上は煙草をねじり消すと喫煙ルームを出て行った。その後ろ姿にため息がこぼれたが、携帯電話のメッセージを見下ろすと口の端が持ち上がる。 「フルパワーでやるか」  浮き立つ気持ちとは裏腹な短い返信をして、携帯電話をジャケットに突っ込んだ。そして短くなった煙草を押しつぶして、野上のあとを追うようにガラス扉を押し開けた。  午後の仕事は大きなトラブルもなく順調に進んだ。いつも以上にやる気を見せる俺に同僚たちは目を丸くしていたが、野上だけが訳知り顔でにやついていた。最後の打ち合わせが終わる頃には、その顔はさらに楽しげなものに変わった。  それでもその顔を無視しながらさっさと仕事を切り上げる。もちろん明日のスケジュール組みまで終わらせた。納期のある仕事なのでスケジュール調整は必須だ。 「野上さん、九竜さんがなんか鬼のように仕事こなしていくんですけど」 「まあまあ、いいじゃないか。早いに越したことない」 「じゃあ、俺は帰る」  十九時きっかりにパソコンを落とす。あまりにも早い行動に全員呆気にとられていたが、そんなことは気にせずに早々に会社を出た。
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