街角は恋をする

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 目的の駅までは電車で三駅ほど。混雑した電車に迷わず乗り込み先を急ぐ。  しかし思えばこんなに早く会社を出るなんてここ最近なかったなと、少ししみじみしてしまう。一時間二時間の残業は当たり前。仕事の納期が近づく頃には終電間際の帰宅も余裕であるくらいだ。  毎回こんな時間に会うことは出来ないだろうが、いまのうちだけでも時間を作りたいと思う。それほどまでに会いたいのかと少し自分でも驚いてしまうけれど、これも熱に浮かされているいまだけかもしれない。  そのうち熱が冷めたら少しは冷静さが戻ってくるだろう。しかしいつか飽きて手を離す時が来ると言うのはあまり想像ができない。あれを手放すなんてもったいなくて出来やしないだろう。  だからいつかこちらが愛想を尽かされるんじゃないかという懸念がある。だがそんなことをいまから考えていても仕方がない。その時はその時だ。 「九竜さん、いらっしゃい」  マンションに着いて、部屋の呼び鈴を鳴らすと数分もしないうちに扉が開かれる。至極嬉しそうな顔で出迎えられて、また気持ちが浮き立った。このいちいち反応してしまうところに自分で呆れてしまうが、目の前の笑みにそんなことは帳消しにされる。 「どうぞ入ってください」 「仕事は一段落したのか?」 「はい、九竜さんが来るってわかったら捗りました」  男性恐怖症気味な竜也は、会社勤めが苦手なため在宅の仕事だ。家にこもりきりだが時間が自由でいいと笑っていた。数年ほど会社勤めもしていたようだが、セクハラがひどくて続けられなかったらしい。  まあ、こんな美人がいたらそわそわして仕事にならないだろう。俺だって会社に竜也がいたら気が気ではない。 「あ、ご飯まだでしょう?」 「作ったのか?」 「ええ、簡単なものですけど。あ、迷惑でした?」 「いや、ありがたい」 「よかった」  ふんわりと笑った顔がやけにあどけなくて可愛い。その表情に思わず手を伸ばせば、目を瞬かせて驚きをあらわにする。しかし驚きはしたが、俺の手を避けることなく大人しく頬を撫でさせた。
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