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しかしそこに自覚はまったくなさそうで、思わず苦笑いを浮かべてしまった。そんな俺の反応に竜也は不思議そうに目を瞬かせる。
「九竜さん?」
「そうか、じゃあ、俺と付き合うか?」
「え?」
「俺がいいなら、俺のものになればいい。嫌か?」
「……あ、嫌じゃないです。でも、九竜さんは誰か一人だけって言うタイプじゃないって思ってました」
「まあ、その通りだが、あんたは特別だ」
自分の性質を見透かされていたのかと思うと少し気恥ずかしさがあるが、いまここで恥ずかしがって躊躇している余裕はない。このままセフレで落ち着くようなことは絶対に避けたい。ほかの誰かにこの男を盗られるようなことになっては困る。
「どうする?」
「いいのかな、こんなこと」
「どういう意味だ?」
「街角でばったり出会った人と運命的な恋をするなんて、お話の中の出来事みたい」
「夢物語じゃないから、ちゃんと答えを聞かせてくれ」
子供みたいな顔で笑う竜也に思わず返事を急いてしまう。笑ってはぐらかされたらたまらない。けれどそんな俺に目の前の顔はますます楽しげに笑った。
「嬉しい。九竜さん、独り占めに出来るんですね。いまだけだって思ってたから」
「竜也」
「初めての本当の恋なんです。大事にしてくださいね」
「……もちろんだ」
ひどく幸せそうに笑うから、ひどく胸が苦しくなる。こんな痛みはいままで知らなかった。愛おしいと思うほどに胸が苦しくなるなんて、初めて恋をしたのは俺のほうじゃないのか。
まっすぐに両腕を差し伸ばされて、引き寄せるように身体を抱きしめた。これからどんな感情を知るのか、少し怖くもあるがいまは満ち足りた気分のほうが大きい。
「九竜さん、好きです」
「ああ、俺もだ」
出会い頭に一目惚れの恋なんて、絶対にあり得ないと思っていた。しかし人との繋がりというものは未知数だ。
生涯一人でいいなんて言っていたはずの自分に訪れたこの運命的な出会い。それをこれからもっと噛みしめることになるのかもしれない。
街角は恋をする/end
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