その瞳に溺れる

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その瞳に溺れる

 遊ぶ相手は男だろうが女だろうが構わない。見た目がそれなりに良くて、後腐れなく遊べるなら誰でもいい。ただし一回寝たやつと二度寝ることはない。遊びは一夜、それは必ずだ。束縛されるなんてことはごめんだからな。  連絡先を交換なんて絶対にしない。興味もない相手に時間を取られたくない。その日その夜、一晩だけ楽しければそれでいいと思う。  しかしずっとそんなことを繰り返して、それでいいと思ってきたはずなのに、ある日を境に生活が一変した。時間ができれば、夜の街へ遊び歩いていた自分がいそいそと、一人の男の元へ通うようになるなんて、数ヶ月前の俺に言っても信用されないだろう。 「九竜さんっ」 「ん?」 「……も、もう無理、無理ですっ」 「竜也のここはまだ元気だぞ」 「あっ」  しなやかな細い身体。色白で染み一つない、なめらかな陶磁器みたいな艶やかな肌。涙を浮かべる瞳は、欲に溺れても清廉さを保っているが、こちらはその目を見ているだけでゾクゾクとする。  どうやってさらに泣かせてやろうかと思ってしまうので、彼からしたらたまったものではないのだろう。いまも散々イかされて、シーツにしがみつくのが精一杯になっている状況で、追い詰められている。 「竜也のもう無理はおかしくなっちゃうから、もう無理なんだろ? 俺はその可愛い竜也を見たいんだけどな」 「酷い、九竜さん、意地悪だっ……あぁっ、んっ」  ぽってりとした厚い唇から、こぼれる声は甘くていつも縋りついてくるようだ。しかしこちらへ向いていた顔が、枕に埋められてしまい声がくぐもる。けれど小さな尻を鷲掴み、奥まで突き入れれば何度も声はこぼれてきた。  いやいやと言うけれど、基本的に快楽には従順だ。そしてそれを与えられることが嫌いではない。ただ我を忘れてしまうのが怖い、という可愛い言い訳があるだけ。 「もうっ、……九竜さん、身体目当てですかっ」 「なんだ、それは」  思いがけない単語に首を傾げると、再びこちらを振り向いた竜也は、少しふて腐れたみたいに口を尖らせる。その表情はあどけなさがあって、ひどく可愛いが先ほどの言葉は聞き流せない。会えば必ず組み敷くが、それだけではないつもりだ。 「だっていっつも、こんなにいっぱいっ。もっと、お話とか、したいです」 「セックス以外にもたくさんしてるだろう。あんたのおねだり聞いてディナーもランチも、ショッピングもドライブだって」 「じゃ、じゃあっ、今度は、……映画、観に行きたいです」 「いいぞ」  しつこい俺のセックスに応える代わりに、いつもこれまた可愛い条件を付けてくる。その場所や行動自体には大して興味はないが、竜也が喜んでいるの見るのが楽しいので、ほとんどのおねだりは聞いている。そもそもNOと言ったことは、これまで一度もない。 「絶対ですよ」 「もちろんだ」 「次の、土曜日」 「わかった。ならおねだりの前借り分、たっぷりもらっていいよな?」 「あっ、やぁっ、そ、そんなにしたらっ、すぐイっちゃ、うっ」  感じやすい素直な身体。言葉とは裏腹に、飲み込んだ熱を離すまいときつく締まる。自分でさらに受け入れるよう、腰を揺らしているのに気づいていないのがいやらしくて可愛い。引き寄せるように細い腰を掴むと、ビクリと身体が跳ねた。 「ぁっ、んぅっ……やっ、あっあぁっ、……九竜、さんっ」 「今度はなんだ?」 「はぁっんっ、う、後ろ、からじゃ、なくて、……前から、前からがいいです。寂しいです」 「竜也はこっちのほうが感じるだろ?」 「でもっ、九竜さんの、顔が見たいです」 「……仕方ないな」 「んっ」  ずるりと熱を引き抜けば肩が震える。すっかり銜え込むのにも慣れた、熟れた窄まりはいやらしくヒクついて、物足りなさそうに見えた。また奥まで突き入れたくなるが、腰を落とした身体を仰向けに転がせば、涙目に見つめられて口の端が持ち上がる。  じっと熱っぽい目で見つめてくる竜也は、甘えるみたいに両手を伸ばしてきた。それに誘われるように近づいて、薄く開いた唇を塞ぐと、首元に腕を絡めてくる。 「んんっ、……九竜さんっ」 「ん?」 「好き、好きです」 「ああ、俺もだ」  頬に口づけて、汗ばんだ髪の毛を梳いて撫でれば、嬉しそうにはにかむ。それがまた可愛くて、張り詰めたままだった熱を再び押し込むと、身体をのけ反らせて打ち震えた。従順な身体は次第に律動に合わせて腰を揺らす。
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