その瞳に溺れる

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 映画が終わる頃には、ハンカチはくしゃくしゃで、泣き過ぎで目が赤くなっていた。啜る鼻をティッシュで勢いよくかんで、またほろほろと涙をこぼす。その顔が可愛くて、指先で涙を拭えばほんのり頬を赤く染める。  しかしなんとなく話の流れを見はしたが、恋愛にまったく興味がない俺には、共感できるものではなかった。それでも少し興奮したように語る、横顔を見ていれば満足した気分にもなれた。 「あそこのシーンすごくて、もう感動しました。九竜さんはどうでしたか?」 「ああ、良かったよ」  映画の中身じゃなくてあんたの飽きない反応が、だけど。  そんなことなど考えもしない竜也は、感激したように目を輝かせて、両拳を握りしめて同意する。それがますます可愛くて、頭を撫でたら顔をほころばせて笑った。 「さっきパンフレット売り場のポップを見たら、今度小説の続編が出るって書いてました。楽しみが増えました。あ、あの、また映画、付き合ってくれますか?」 「もちろん」 「良かった! 隣で大泣きしている男となんて恥ずかしくていられないとか言われたらどうしようかと思いました」 「あんたの泣いてる顔は可愛いから構わない」 「……そ、そうやってすぐに可愛いとかって、恥ずかしいです」  そわそわと視線をさ迷わせているのを見つめていれば、ふいと顔をそらしてぎこちない動きで歩き始める。混雑した中でギクシャクとした動きで進む、後ろ姿に思わず笑ってしまった。  けれど見失うわけにもいかないので、その背中を追いかける。ちょこちょこと隙間を抜けて行く竜也は、時折人にぶつかりながら進んでいく。危なっかしい様子に手を伸ばせば、大げさなくらい肩が跳ねた。 「少し落ち着いて歩け」 「も、もうっ、九竜さんのせいです」 「それは責任転嫁というやつじゃないのか?」 「違いますっ、九竜さんがドキドキさせるからです」 「可愛い言い訳だな」 「もう! 馬鹿っ」  この天然極まりない男が可愛いと、思わないやつがいるのなら見てみたいものだ。怒っているつもりなのか、両手の平で人の身体をバシバシと音を立て、叩いているそれすらいい。こちらこそどれだけ、人をその気にさせるのかと言いたい。  真っ赤になっている頬を撫でたら、ムキになりすぎて涙目になっている。 「ほかに行きたい場所はあるか?」 「……色々と見たいところはあるんですけど」  気持ちが落ち着いた頃に声をかければ、ウロウロと視線が流れる。街中は休日と言うこともあり、多くの人が行き交っていた。けれど賑やかな繁華街なので、店が建ち並び気を引かれるものも多いのだろう。あちこちに寄り道をしながら、楽しそうな笑みを見せる。  買い物は基本決まったところで、適当に見繕ったものを一括買いする俺とは違い、竜也は店を渡り歩いてあれこれと見比べる。あちらへ行ったと思えば、またこちらへ戻り、女の買い物に少し近い。  それでもそれを見ていても苛つかないのは、この男だけだと思う。ほかのやつなら付き合う以前の問題だが。 「なにを悩んでるんだ?」 「さっきの店で見たトップスとこれ、似た形なんですけど。どっちがいいかなと思って」 「……さっきのよりもこっちのほうがいい。それと色はこちらのほうが好みだ。あんたに似合う」 「えっ? ほんとですか? あんまり着ない色だけど」 「いつもの白やネイビーもいいが、パープルやグリーンも似合うと思うぞ」  素材がいいのに、いつも着ている服の色がワンパターンだ。白黒紺、それ以外の色はほとんど見たことがない。もう少し華やかな色を身につければいいのに、もったいないとしか言いようがない。 「……んー、じゃあ、九竜さんが言うなら、こっちのパープルで」 「なら、これと、それとそっち」 「だっ、駄目です! 九竜さんの感覚で買い物しないで!」 「心配するな、買ってやる」 「それが駄目なんです!」  ちまちま買うよりも、気に入ったものがあるならその場で買えばいいと思う。ずっとほかにも目移りしていた。けれど必死になって止めるので、トップス三枚とボトム二枚、靴一足で譲歩してやった。金遣いが荒いと言うが、まとめて買うか小出しに買うかの違いだ。
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