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「だからと言って、いきなり相手を探すのはハードルが高いんじゃないのか?」
「ほ、本当にそんなつもりじゃなくて。男性と少しお話がしてみたかっただけなんです」
「ゲイの男と話してみて自分の反応を確かめたかったってことか? やめておけ。あんたみたいなのが警戒心なく近づいたら、男はホイホイ話に乗ってくるだろうが下心だらけだ。さっきのことで身に染みてわかっただろう」
俺だってこんな話を聞かなければ、どうにか懐柔して組み敷いてやりたいと思う。それだけの魅力がこの男にはある。しかもひどく切なげに瞳を揺らすので、その色気に当てられてしまう。
自分が理性的であることを賞賛したくなったのは今日が初めてだ。
「とりあえず表通りまで送る」
これ以上こうしているとさすがに取り返しのつかないことをしそうだ。早々に送り帰してしまわないと、俺のためにも彼のためにもよくない。しかし腕に抱いた身体を引き離そうとしたら、それを遮るように両腕を掴まれた。
「あの、あなたにも下心はありますか?」
「は?」
突然なにを言い出すのかと耳を疑ってしまう。ついさっきまであんなに怯えて青ざめていたのに、彼は頬を赤く染めながら期待に満ちた目で見上げてくる。そのどこかあどけない表情にまた言葉が詰まりそうになった。
「……ある。大ありだ。だから早く帰ったほうがいい」
「それなら、自分のわがままに付き合ってもらえませんか。あなたに触れられるのが駄目なら、確認するのは諦めます」
まっすぐな瞳が俺の目と心を捉えて放さない。この甘い囁きに抗える男はどれほどいるだろう。これはノーマルな性癖の男でもうっかりと気の迷いを起こしそうな雰囲気だ。
そして俺もまったくの例外じゃなく、誘われるままに手を伸ばした。そっと柔らかな髪を撫で、なめらかな頬を撫でると、ゆっくりと厚みのある唇に口づける。
「こんなことで確かめられるのか?」
「あなたなら、大丈夫な気がするんです」
思っていた以上に柔らかい唇に、食らいつくようにキスをすれば両腕を握る彼の手に力がこもった。
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