街角は恋をする

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街角は恋をする

 仕事が一段落して忙しさから解放されると、人と言うものは気が緩みがちだ。もう頭の中は適当にいい相手を見繕って一晩楽しむことばかり考えている。  常日頃そんなことばかりを思っているわけではないが、大仕事のあとはより一層自由になりたいものだ。しかしそれが顔に出ていたのか、同僚たちにはだらしない顔だと笑われた。  だがもう気分は上々だ。ちょっとくらいの揶揄は気にならない。 「九竜(くりゅう)、お疲れさん」 「今回は骨が折れる案件だったな」 「お前が最後仕上げてくれたおかげで助かったよ。あとはもう思う存分遊んで来い」 「言われなくても」  にっかりと笑った上司の野上は気さくな男だ。仕事さえしっかりとしていれば、プライベートがいかに爛れていても気にしない。俺のようにルーズな性癖でも気にすることなく受け流してくれる。  今日は男か、女か? なんて冗談まで飛び出すくらいだ。 「九竜は一つのところに留まるのが本当に駄目だな」 「他人に自分を制約されるのが苦手なんだよ」 「一生野良か? もう三十過ぎただろう」 「四十過ぎたあんたに言われたくない。俺は生涯一人でいい」 「俺はマイハニーがいるからいいんだよ。けどお前みたいな色男は放っておかないやつらが多いだろうにな。顔がいい、背も高くて見た目がいい、性格も割と紳士的だ。でもまあ、人もそれぞれだからな」  しみじみと語る野上に肩をすくめてみせると、苦笑いを浮かべて手を上げた。ひらひらと振られるその手はもういいぞ、という言葉の代わりなのだろう。  おそらく同僚たちはこれから打ち上げと称した飲みに出掛けるはずだ。これはそこに巻き込まれないうちに帰れと言うありがたい配慮と言ったところ。  その意を汲み取って、俺もひらひらと後ろ手に手を振ってその場をあとにした。  会社を出ると時刻は二十一時を回っていた。大仕事のあとの割に今日は随分と早い上がりだが、夕陽を落とした空はすでに夜空に変わっている。けれど夜の街は煌々とした外灯に照らされていまだ明るい。
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