アリジゴクに堕ちて

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……決めたはいいけど、大の大人の起こすっていう初仕事、失敗に終わりそうなんですけど。 探しても探してもその部屋は見つからない。 最後にもう一度だけ全ての襖を押してみて、無理だったら諦めよう。そう決め、押す手に力を込めた。 ……カチャン… 端から七枚目の襖が、この時を待っていたかのように簡単に開いた。 さっきは開かなかったのに、今度はどんな仕掛けだったの?だけど、もうこの館の造りには、ちょっとやそっとのことでは驚かされない。 吸い込まれるように中に入ると、ブルーの照明に照らされた見覚えのある部屋が広がる。 あの時の部屋。 中に隆二さんの姿を確認したわけではないけれど、直感で彼の部屋だって分かった。 それと同時に不安がよぎる。 隣に誰かいたら…どうする? 前に見た乱れたシーツを思い出してしまう。 でも起こさなくちゃいけないし… 失礼しまーす。 心の中で挨拶しながらベッドの脇へと足を進めた。 音を立てないように細心の注意を払いながら枕元に近づく。覗き込めば、毛布の中に顔をうずめ、気持ち良さそうに寝息を立ててる隆二さんがいた。 良かった、一人みたい。 少しだけ毛布をずらして顔を出すと、眉間にシワを寄せて眩しそうな表情をする。明かりを遮るように左手の甲を目元に置いて、また規則正しい寝息を立て始めた。 男の人にしては細くて綺麗な指。 久砂さんが言っていた"色気のある手"そのものって感じ。寝ている間も外さないのか、見慣れたデザインが施されたリングがその薬指にはめられていた。 ……どう起こそう。 揺すってみても、叩いてみても、耳元で声をかけてみても、どれも全く効果がない。 途中少し掠れた声で反応してたけど、私から離れるようにどんどん端に移動して、今はこちらに背を向けた状態で寝ていた。
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