18888人が本棚に入れています
本棚に追加
/736ページ
……決めたはいいけど、大の大人の起こすっていう初仕事、失敗に終わりそうなんですけど。
探しても探してもその部屋は見つからない。
最後にもう一度だけ全ての襖を押してみて、無理だったら諦めよう。そう決め、押す手に力を込めた。
……カチャン…
端から七枚目の襖が、この時を待っていたかのように簡単に開いた。
さっきは開かなかったのに、今度はどんな仕掛けだったの?だけど、もうこの館の造りには、ちょっとやそっとのことでは驚かされない。
吸い込まれるように中に入ると、ブルーの照明に照らされた見覚えのある部屋が広がる。
あの時の部屋。
中に隆二さんの姿を確認したわけではないけれど、直感で彼の部屋だって分かった。
それと同時に不安がよぎる。
隣に誰かいたら…どうする?
前に見た乱れたシーツを思い出してしまう。
でも起こさなくちゃいけないし…
失礼しまーす。
心の中で挨拶しながらベッドの脇へと足を進めた。
音を立てないように細心の注意を払いながら枕元に近づく。覗き込めば、毛布の中に顔をうずめ、気持ち良さそうに寝息を立ててる隆二さんがいた。
良かった、一人みたい。
少しだけ毛布をずらして顔を出すと、眉間にシワを寄せて眩しそうな表情をする。明かりを遮るように左手の甲を目元に置いて、また規則正しい寝息を立て始めた。
男の人にしては細くて綺麗な指。
久砂さんが言っていた"色気のある手"そのものって感じ。寝ている間も外さないのか、見慣れたデザインが施されたリングがその薬指にはめられていた。
……どう起こそう。
揺すってみても、叩いてみても、耳元で声をかけてみても、どれも全く効果がない。
途中少し掠れた声で反応してたけど、私から離れるようにどんどん端に移動して、今はこちらに背を向けた状態で寝ていた。
最初のコメントを投稿しよう!