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装飾が施された無駄に煌びやかなワイヤレスイヤホンを持って隣にやってきた久砂さんは、店の電気系統は全てスマホで操作できるようになっていると教えてくれた。
私は専用のスマホを取り出して、おぼつかない手先を動かしながら、音声の切り替えなどを操作してみた。
酔いの残る頭では、なかなか手順を覚えるのが難しい。じっと画面を眺めていたら、なんだか店内が騒々しいことに気がついて視線を上げた。
"久砂が来てるって本当?!"
"指名っ!!早く指名入れてっ!!"
「やべっ…バレた…」
焦る久砂さんを余所に、カツッカツッとヒール音をさせて現れたレイカさんは冷淡な笑みを浮かべた。
「今日暴れたぶん働いてもらうわよ。ほら、早く着替えなさい」
「……まじかよ」
「大まじ。今日は既にいらしているお客様だけご案内するからそんに忙しくないはずよ。分かったらさっさと動く」
「わぁったよ、レイカは相変わらず厳しいねぇ」
「茉莉花さんは、ゆっくり勉強しててね。帰る時はマネージャーに言ってくれれば車回すから、絶対に歩いて帰らないでちょうだい」
レイカさんはまたどこかへ消え、久砂さんも私に一言謝りを入れてから仕事に向かった。
二人のやり取りを見ていたけど、私は上の空。
だって、イヤホンから耳に入ってくる会話があまりに生々しくて、目の前の二人の話なんて全然頭に入ってこなかったんだもの。
"ねぇ、隆くん…キスして?
……今?
うん。絶対誰にも言わないから。ね、お願い。
俺たちの秘密か…いいよ。……こっち向いて"
しっ……しちゃうのっ?!
モニターの中の隆二さんが動いた。
"………手…なの?
唇なんかにしたら、止まらないから
止めなくていいのに。……ねぇ、隆くん。
ん?
今日こそ……うち来て?"
ええっ?!自宅に誘われちゃうのっ?!これがアフターってやつ?!
"俺、行ったらどうなるか分かりませんよ…
いいの!隆くんの好きにしてっ
……だめだよ。俺は、他の誰よりもあなたの事大切にしたいんです。だからもっと時間をかけて…”
隆二さんの手が彼女の頬を包んだ。そこに女性の手が重なる。
“嬉しいっ!私のことそんな風に思ってくれるなんて
でもやっぱり落ち着きますね。あなたの隣が一番落ち着く。もっと会いたいけど…
分かった隆くん。明日もくるから待っててね。すぐに予約入れるから!
明日か…楽しみだな”
来店の約束までさせて…それよりも、その猫なで声に普段より丁寧な言葉使い…
仕事だって分かってるけど、なんか気にくわない。
モニターを見続けると、次に入ってきたのはホスト遊びなんてやらなそうな清楚系の人。
あ…隆二さんの顔つきが変わった。
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