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ジャケットを脱ぎ、ネクタイを外してワイシャツの第3ボタンまでガッツリ開けたスタイルに変わった隆二さんは、足を組んでソファーに浅く腰を下ろしていた。
態度悪っ!!
"何お前、また来たの?
隆二…もっと優しくしてよ
は?俺になんかしてもらいたいわけ?
ご、ごめんなさいっ。違うの
お前もう来んな
やだっ、そんな事言わないで!隆二のためなら何でもするから…"
これは…転がり落ちていくタイプだ。
次は、パリピ感満載の派手なタイプのコ。
隆二さんの肩に寄りかかりながら上目使いでずっと話をしていて、手を絡ませたり、隆二さんが頭を撫でたりしていて、
……いちゃいちゃしてる感じ。
それからも隆二さんの接客を見続け、一体どれが本当の姿なのか分からなくなってきた。
この店に来られる人は限られた人だけって聞いたけど、基準は…お金…?女性のタイプは様々だもの。
嘘で塗り固められた優しさだって分かっていても、離れられない魅力が彼らにはある。
夢と現実の狭間を漂う彼女たちが、いつまでも夢を見続けられるようにフォローするのが私の仕事。
そう感じた。
でも、
でも、でも、
なーんかムカつくんですけど。
その理由は分からないけど、ただ、ちょっと酔っ払って感情的になってるだけ。
『HALさんっ!!』
イヤホンを外しながら『ヤケ酒!!』って注文。
HALさんは「そんなメニューないけど」と笑っていたけど、あっと言う間にマンゴーを使ったフローズンカクテルを作ってくれた。
「見た目より強いから気をつけて」
そんな忠告なんて無視して、溶けたかき氷を最後口に流し込むように、ほぼイッキで飲み干した。
『HALさん!!』
「はいっ」
『ヤケ酒おかわり!!』
「……まったくもぉ〜こりゃ三人も苦労するわな」
『は~や~く~』
「はいはい」
それからも私は飲み続け、なんだかんだでもうすぐ日が変わる。
イヤホンを外してからずっと無視していたモニターをチラッと見れば、久砂さんと宗正くんは相変わらず接客中だった。
変わっていたのは、隆二さんの部屋。
誰も映ってない。
そして、電源が落とされたのか真っ暗になった。
「飲み過ぎんなって言っただろ…。ちょっと出てくるから、俺が帰ってくるまで待ってろ」
"待ってろ"
って何~~~?!なんでそんなこと隆二さんに言われなくちゃいけないの!
いつの間にか私の背後にいた隆二さんが、そんな事を言って店から出て行った。
『HALさ~ん、りゅ~じさんてどんな人で~すか~?』
「…また酔っちゃったね、ちゃんと待ってなよ」
『だ~から、どんな人ですか~?』
「そうね、………怖い人…」
………こわいひと。
「で、優しい……かな?」
………やさしい。
結局、どんな人なのか分からないし、今何処で何をしているのかも分からない。
ただ、”待ってろ"と言われて素直に待ってるほど私は従順な女じゃない。
『ごちそうさま~でした』
「…帰るの?」
『あい。…眠いですから』
「怒られちゃうよ?」
『………聞く耳持たず…』
「あっはははっ、面白いね。じゃあ気をつけて帰ってね」
マネージャーが用意してくれたのは、車に疎い私でも知っている、超高級車。清潔感のあるプラチナヘアーに白い手袋をつけた”いかにも”な紳士が運転席から降りてきて、優雅にドアを開けてくれた。
ジュエリーを買いにやってくるマダムたちが乗っているのを見たことはあるけれど、乗るのは初めて。
『この車…』
「気になりますか?これはロールスロイス・ファントム。オーナーは隆二さんですよ」
『……りゅ〜じ…しゃん』
「ふふふ、そうでございます。運転するのがわたくしなので、あまり華美にならないようにと最近この車を買われました」
『……華美…すぎましぇん…?ものすごいラグジュアリー感…』
「広くて美しい車でしょう?それに、大切なものを守るためにはそれなりに頑丈でないといけませんから」
…頑丈。
聞いたことがある。会社の社長たちが高級車に乗るのは、もちろん税金対策ってこともあるけど、命を守るためって。
社長が死んでしまったら、従業員とその家族が露頭に迷ってしまうから、安全を買っているんだって。
だけど、ここのホストたちが所有する車は、安全性云々よりステイタスな気がするけど。
分かった。隆二さんは、隆二の”R"がエンブレムになってるからロールスロイスにしたんだ。そうに決まってる。
私は一人その結果に満足した。
「わたくしは隆二さん専属の運転手になります。これから茉莉花さんもお乗せすることが多くなると思いますので、よろしくお願い致します」
プラチナヘアーの紳士は、還暦を超えたところだと教えてくれた。夜の仕事に携わって、もう長いと。そして、私の自宅までのルートは任せて欲しいというので、素直にお願いした。
びっくりするくらい乗り心地の良い車。道路のデコボコをサスペンションがうまく散らして、心地よい揺れをもたらす。
ベンチシートにカスタムされた後部座席に埋もれるように座り、私はは窓の外をボーッと眺めた。
そこにあるのは新宿のビル群。
そして、視線の先にはネオンが怪しく輝き、色々な闇が渦巻くエリア。夜が更けるにつれて街を行き交う人種も変わり、愛欲に包まれていく歌舞伎町。
そんな街の通りに一つの大きな人だかり。ケイさんと行ったホストクラブの近く。
けたたましく鳴るサイレン。
だけど、そんなもの私には関係ない。
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