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表示される名前を見るだけでこんなに気持ちが昂ぶるなんて。
鳴り続ける着信音に我に返り、久しぶりに声を聞けることに緊張しながら通話ボタンに指を滑らした。
『………もし、もし?』
うるさっ!!
クラブにいるかのような重低音がスピーカーから響いてきて、思わずスマホを耳から離した。
『……隆二さん?』
………あれ?
(……リュウジのガールフレンド?……え~やっぱりいるんだぁ…………でも日本でしょ?………あ、やばい、帰ってきた……)
(………俺のスマホ無かった?)
(リュウジ~早く部屋行こ~………私も~……)
………な、なにこれ…
(何でこんなとこに俺の電話あんだよ)
(知らな~い……そんなことより早く~)
(……通話中?……もしもし…誰?)
『………楽しそうですね』
自分でも驚くぐらいの低い声。
(……茉莉花?!)
ブチッ、プー…プー…プー…
切ってやったわよ……
でも、スマホを持ったまま放心状態……
……なんだ、女いるんじゃない
……なんだ、電話…繋がるんじゃない
……なんだ、ムカつくわ
ほったらかされてるだけなのね
別にいいわよ
そんな、特別な関係じゃない…
スマホを充電機に差し込み、後ろから聞こえてくる着信音には気がつかないふりして、バスルームに急いだ。
お風呂上がり、すっかり酔いも覚めて腹立たしさも少し落ち着いた。
けど、やっぱりムカつくから、冷蔵庫を開けてミネラルウォーターの代わりに缶ビールを取り出す。
着信があった事を知らせるランプが光るスマホを充電機から外し、ルーフバルコニーに出る。
初夏の風が吹き始めた夜空を見上げながら画面に触れ、着信相手を確かめた。
三日間音沙汰の無かった男が、私がお風呂に入っていた数十分で何回も連絡してきていること。
折り返すべき?
また掛かってくるのを待つべき?
そんな事を悩んでいたら、見透かしたように
"着信中井倉隆二"
そう表示された。
『………はい』
(……茉莉花、電話しただろ?…どうした?)
…………え、
私が電話したことになってるのっ?
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