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慣れたようにVIPルームでくつろぐ端正な顔立ちの男性。
「久砂、私は向こうにいるから好きなの選びなさい」
青原様を通常フロアに見送り、何本かセレクトした時計をトレイに載せて、”ヒサ”と呼ばれた男性の前に差し出した。
近くで見れば見るほど綺麗な男。
彫刻のような顔立ちに、隣に並ぶのが嫌になるくらい手入れが行き届いた肌。軽くウェーブのかかった金髪はライトに照らされ、その肌を隠すように揺れている。
青原様とは親子ほどの年齢差だろうか。
余計な詮索をしてはいけない。たとえ”おしゃべりのネタ”になるような関係だとしても、私には関係のないこと。私はテーブルの横に片膝をついて腰をかがめ、手袋をはめてから時計を一本手に取った。
『こちらは…』
説明を始めたら、私の言葉を遮るように耳に残る低音ボイスが頭のすぐ上から落ちてきた。
「……葉山……茉莉花…」
私は弾かれるように顔を上げた。
ジャケットの胸元につけたネームプレートから、彼の視線が上がってくる。何を言われるのかと、緊張が走った。
「……見~~っけ」
私の名前と意味の分からないフレーズを呟いた後、私に向けられた顔がゆっくりとほころんで、その微笑みが恐ろしく綺麗だった。
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