茶番

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茶番

あの衝撃的な一夜から二週間。 あれは夢だったのかと疑うくらいパタリと連絡がこなくなり、私は穏やかな日常を送っている。 ……そりゃそうよね。もともと何の繋がりもなかった人たちだもの。連絡がある方がおかしい。 ちょっと手の込んだイタズラと思えばいい。 だって、1回100万って言ってた。そんな男たちだよ? あの日、宗正くんに見送られ動き出したタクシーの車内でサナに連絡をしようとバッグに手を入れれば、スマホより先にあのリングに手が触れた。 若干の自己嫌悪に陥りながら、私は急いで引き返した。エントランスにいた若いホストに預けようと説明すると、リングを見た瞬間に顔色を変えて誰かを呼びに店内に走っていってしまった。 焦っているようなのに、その走りはどこか軽やかでやっぱり教育が行き届いているんだと感心した。 出て来たのは、さっき見送ってくれた宗正くん。何百人の女性を一瞬で虜にしてしまうような余所行きの笑顔で「どうしたの?」だって。 隆二さんにリングを渡してほしいとお願いしたら、驚くほど簡単に快諾してくれた。 さっきの若いコはあんなに焦っていたのに。     
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