アリジゴクに堕ちて

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アリジゴクに堕ちて

久砂さんの専用部屋から和室に出ると自動でロックがかかったみたいで、襖を押してみてもびくともしなかった。 …本当に不思議な館。 私は小さく息を吐いて、視線を他の襖にむけた。隆二さんの部屋を探そうと壁一面を覆う襖を一枚一枚押してみたけど、開くどころかどれもこれもピクリとも動かなくて。 途方に暮れながらぐるりと見渡した和室は相変わらず妖しさ満点で、前と違うところといえば、床の間に生けられた花が桜に変わっていたこと。 四季なんて関係なさそうな空間で、しっかりとその存在を光らせる作品。 "三月中に答えを出せ" その期日が迫っていることを私に知らせているようにも感じた。 そうだ、隆二さんにも伝えないといけない。 "とりあえず"やってみるって。 正式契約云々って言ってたから、世間一般的な常識だと試用期間ってことよね。……それは三カ月くらい? やるか、やらないか、そこで最終ジャッジを下せばいい。 ちがう。私が、ジャッジされる側だった…。 まぁ面白そうっていえば面白そうだし、今の職場は辞めずにしばらくは二足のわらじで頑張ればいい。 そんな浅はかな考えで私はIl Soleになることを決めた。
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