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小さな公園には、誰もいない。遊具で遊ぶ子供の姿もない。端の方に植えられたイロハモミジの下のベンチが寂しそうに佇んでいる。僕はそのベンチに腰を下ろして一息ついた。そして、どれくらいの時間を潰そうかと考えていると、僕と同じくらいの年齢の男が公園に入ってきて、まっすぐ僕の方に向かって歩いてきた。男は僕の目の前に立つと、
「お隣いいですか?」
と声をかけてきた。
「どうぞ」
僕はそう答えてから、体を少し端の方にずらした。それを確認してから、男がゆっくりと腰を下ろす。そして、男はまるで知り合いに話しかけるかのように、僕に話しかけてきた。
「最近はめっきり寒くなってきましたね。紅葉の時期ももう少しで終わりです。そうしたら、あっという間に冬がやってきます」
「ええ、そうですね」
無視するのも申し訳ないと思った僕は、一応男の言葉に反応する。すると、男は安心したのか、更に言葉を続けてゆく。
「寒い時期になると、独り身が堪えます。まったく、以前はこんなことになるなんて夢にも思わなかったんですがね。人生なんて、どこで何が起こるかわからないものです」
「何かあったんですか?」
「いやいや、お恥ずかしい話ですが、いま流行りの“熟年離婚”というやつですよ。あんなもの、テレビの中だけの話だと高を括ってたんですがね、まさか自分の身に起こるなんて思ってもみませんでしたよ」
男は深く溜息を吐く。その隣で、僕の胸には“熟年離婚”という言葉が、矢のように深々と突き刺さる。
「熟年離婚って、どんな感じですか?」
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