一:わたしは巫女である

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わたしは空腹だった。  それはもう、空腹だった。  一体どれくらい空腹なのかと言うと、比喩抜きにお腹と背中がくっついてしまうくらい。腹の音がぐぅぐぅいつまで経っても治まらないくらい。  ……いやまぁ、こんなご時世?  毎日お腹が空いているというのもそう珍しくない訳ではあるし、みんな苦労してんだよ、と言われたらわたしは答えに困ってしまう。  しかし、こんな美少女(わたし!)がお腹を空かしているのだ。  黙って飯の一つも恵んでくれるのが、人情というものではないか?  だがしかし、わたしが今まで出会ってきた人達は、どうやらその人情というものが欠けているものばかりだったらしく、誰も、飯を恵んではくれなかった。  まったく、賭場で摩ったから飯を頂戴って言っただけなのに。  ……あんな怒り心頭にならなくても良いじゃないの。  まぁ、過ぎたことをぐちぐち考えても仕方ない。  とならば、心機一転!  自分でお金を稼ぐ他あるまいと。  そう決意したわたしは、美しい湖からしばらく歩いた後にある、山の麓の小さな村にまで訪れていた。  立地が良いのだろう、暖かな陽光が水田に降り注ぎ、きんきらと綺麗に光り輝いていた。ふぅと吹く風がどこか心地良い。  人口は建物の数を考えてみるに……百人を少し超えたくらいかな?  村を歩く、その村人はふっくらと血色が良いように思える。  ……これは、期待できそうだ。  わたしは、無意識に唇を舐める。  腹の虫が強く空腹を主張していた。  駆け出しそうになる足を根性で抑えつけて、わたしは村の前で突っ立ってみる。すると、そんなわたしに気づいたのか、良い感じに日に焼けた男がわたしのところまで近づいてきた。 「こんな所で突っ立って、一体どうしたんだ嬢ちゃん?」  ……よし、来た、釣れた!  心の中でほくそ笑む。表に出すような愚はしない。  こくっと数瞬だけ不自然にならないように黙り込む。ついつい焦りそうになるが、この間が演出において必要不可欠なのである。  そして、男が不審に思うか思わないかくらいまで溜めておいてから。 「……嬢ちゃんじゃないわ」  男の言葉を否定した。  できるだけ低く、不自然にならず、威厳があるように。 「――わたしは巫女よ。妖怪を退治しに来たわ」
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