一:わたしは巫女である

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わたしは、ばれないように小さく耳を塞いだ。 「いや、最近あんた耳が遠いだろう――って、今回はあんたの話に付き合ってやれる余裕がない。……巫女が、来たんだ」  男が、低い声で言った。 「……何の話をしておる?」  男の本当に余裕のなさそうな真剣な声を訊いて、村長さんも態度を改めた。具体的に言えば、女を誤魔化す為に言い訳をする男の顔だ。  あれって、普通にばれてるんだよね。  え、何の例になってないって?  そんなことを言われても、わたしがそう思ってしまったんだから仕方がない、と誰々に言い訳をしていたら、視線の矛先が限りなく他人に近いわたしに向いた。  じーっと、刺さるような視線だ。  誰だよ、そんな副音声が聞こえた気がした。  だから。 「話をするから、茶を頂戴」  だから、取りあえず小さな要求してみた。  ずずっと、茶を一服してから訊いた。 「えーと、何処まで話をしたっけ?」  すると、気を悪くしたように村長さんは短く言った。 「……ぬし様が、ある妖怪を逃したってところまでだ」 「あ、そうそう、それね」  村長さんの言葉に、わたしはおざなりに返した。  さてと、どう話したものかねぇ。
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