0人が本棚に入れています
本棚に追加
わたしは、ばれないように小さく耳を塞いだ。
「いや、最近あんた耳が遠いだろう――って、今回はあんたの話に付き合ってやれる余裕がない。……巫女が、来たんだ」
男が、低い声で言った。
「……何の話をしておる?」
男の本当に余裕のなさそうな真剣な声を訊いて、村長さんも態度を改めた。具体的に言えば、女を誤魔化す為に言い訳をする男の顔だ。
あれって、普通にばれてるんだよね。
え、何の例になってないって?
そんなことを言われても、わたしがそう思ってしまったんだから仕方がない、と誰々に言い訳をしていたら、視線の矛先が限りなく他人に近いわたしに向いた。
じーっと、刺さるような視線だ。
誰だよ、そんな副音声が聞こえた気がした。
だから。
「話をするから、茶を頂戴」
だから、取りあえず小さな要求してみた。
ずずっと、茶を一服してから訊いた。
「えーと、何処まで話をしたっけ?」
すると、気を悪くしたように村長さんは短く言った。
「……ぬし様が、ある妖怪を逃したってところまでだ」
「あ、そうそう、それね」
村長さんの言葉に、わたしはおざなりに返した。
さてと、どう話したものかねぇ。
最初のコメントを投稿しよう!