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自分は影が薄いと思う。
それはもう、とてつもなく薄い。
けれど周りからはそんなこと、ほとんど言われたことはない。
なぜだろう。思い違い?いや、違う。
答えは簡単。
影が薄いからだ。
私は影が薄いから、そもそも声なんてかけられないのだ。
気を抜くと家族にすら忘れられるこの私の存在感の無さは、多分超能力の類だと思う。制御できないけど。……本気だよ?
生まれてこの方友達なんて出来たこともないどころか、身内以外に私を私だと思って話しかけられたことなんてないんじゃないかと思う。
でも、それだけじゃない。
この能力は、私自身じゃなくても適応されてしまう。
声、名前、写真、絵、文章、その他私を表したり私が表したりする物全て、他人の目に入らず、入ったとしても記憶から消えてしまうのだ。
中学に上がってスマホを貰い、ネットなら、匿名ならと思って結構腕に自身のあったイラストを載せてみたが、評価以前に閲覧者はゼロだった。大勢の人間が往来するサイトの中、誰にも、一人にも、目に留められてもいないということだ。あれを超能力と言わずなんという。
まあ、その後勉強を頑張ってみるも毎考査私だけ採点を忘れられたり、生まれたときから面倒見てる十二歳下の甥っ子がようやく話すようになったかと思ったら「おえちゃんって、だあれ?」と言われたり。
そんなこんなが積もりに積もって、今私は死のうとしている。
「うぅ……やっぱ怖いかも。あはは。」
影の薄さを駆使して鍵を盗んで来たので、学校の定番自殺スポット――屋上に侵入している。
私が死んだら、この呪いみたいな能力は消えるのだろうか。
だとしたら、あれだよね? 学校中の注目の的だよね?
「あはははははは!」
あえて狂気を帯びさせた笑い声は、秋の風にかき消されてしまう。
まあ、この能力があれば盗みとかスパイとかで食べていけそうだけど、誰にも知られずに生きながらえるなら死んで有名になる可能性に賭けてやるってことだ。
下を見ると地面はやっぱり遠い。
まあ、慌てて死ぬことはない。そうだ、何かやり残した事で、この場で済ませられること……
あ、そうだ。
「寺嶋さぁぁぁぁん!! 好きだぁぁぁぁぁ!!」
今度は秋風になんて負けないくらい、叫んだ。
どうせ誰の耳にも入らない大声が、放課後の学校に響いた。
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