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ローズハウス(後編)
ヒロキという男は、やはり胡散臭い。
あれからパソコンを自由自在に扱えるようになって初めて知ったことなのだが、ヒロキの見せたあの心霊写真程度のものは、ネットの写真加工サイトで細工すれば簡単に作れるものなのだ。
昨今夏の風物詩だった心霊番組が激減しているのは、この手の真贋のつけにくい心霊写真が大量に出回っているせいだという。
2chのオカルト系まとめサイトを一通り読んで、全てが腑に落ちた気がした。
ヒロキが動画を見ていないと言ったのは嘘だ。
より刺激的な動画にするために、加工した心霊写真を見せることでミチルをあえてパニック状態に陥れようという、ヒロキ側の作戦があったに違いない。
その証拠に、あの写メの回から、夏シーズン到来で心霊動画乱立の憂き目にあって停滞していたミチルのアカウントのアクセス数は、飛躍的に伸びた。
可哀想なのはミチルである。
あの日以来心ここに在らずになってしまって、あれほど毎日繰り返していた過食のことも忘れてしまい、ネグリジェ一枚の着たきり雀で一日中家の中をふらふらしている。
その生気のなく傾いだままの色の悪い顔は、ロメロ映画のゾンビそっくり。
口の中で呟いているのは、今日は祝詞だった。
真言のときも詠唱のときも、それこそスピリチュアル系の意味不明のものまで、ネットで拾えるものなら何でもありである。
時々何もない空間に向かって、「ガングロ!」「うようよいる」「あんたたちどこから入ったのよ」と叫びながら泣き喚く。
ミチルの目に何が見えているのか、わたしにはわからないし知りたいとも思わない。
数えてみたら、同居からそろそろ三ヶ月が経とうとしている。
ミチルはもう入院措置を取るべき病状まで行っているのではないか、という理性的判断と、わたしとしては悠々自適なここでの生活を手放したくない願望とのせめぎ合いになっていた。
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