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『ところで、春斗』
「ん?」
『言うからには、本当に守りなさいよ。高校生にふさわしい、健全なお付き合い』
「……うん」
俺が一瞬だけ作ってしまった間に、大らかな我が姉は気付かなかった。
姉とて、弟の真意には気付くまい。
瞳美のあの可愛らしい声で「春斗さん」なんて呼ばれたら──理性がぶっ飛びそうだからハンドルネームで呼んでもらっている、なんて言えるわけがない。
瞳美が俺を名前で呼びたそうにしているのを、いつまで知らん顔していられるだろうか。
彼女が朝起きてから飲む檸檬ジュースを、俺は夜眠る前に飲んでいる。
日夜膨らんでいく恋心を、甘酸っぱいまま押しとどめておくために。
社会人の男の日常は、綱渡りの連続だ。
-fin-
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