十五年を経て

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隣の席にいた十八歳の女の子に声をかけられ、私たちは喫茶店に入りました。 東京でのライブでしたが、彼女は北海道から来たそうです。 カグヤのためにアルバイトで資金を集めて、全国を追いかけているのだと嬉しそうに話してくれました。 はしゃぐ彼女につられて、私はつい 「中学生の頃から憧れの先輩だったんだよ」と、 ずっとファンであるかのような発言をしてしまいました。 「えーっ、同じ学校? すっごい!」 彼女は身を乗り出して驚きました。 すると私は、本当にあなたのファンを十五年間続けているような気がしてきました。 もしかすると初めて出会ったあの初夏の日から、 私はあなたを基準に人生を進めてきたのかもしれない。 結婚が破談になったのも、あなたと再会を果たすためだったのかもしれない。 そんなふうに考えていると、 彼女はスマホを出して、連絡先を教えてと目を輝かせました。 「カグヤの連絡先、知ってるんだよね?」と言うのです。 「ごめんなさい、中学以来会ってないから……」 「でも、実家の電話番号とか、名簿から入手できるでしょ?」 「いや、本当に知らなくて」  すると彼女は鞄を持って立ち上がりました。 「やっぱ嘘じゃん、知り合いなんて! あんたみたいなのがいるから、ファンの品位が下がるんだよ!」 それだけを言い捨てると、さっさと店の外へ飛び出していきました。 一人残された私は、彼女がいなくなった席を呆然と眺めました。 ファンの品位、彼女はそう言いました。 その頃はまだ、ファンだという自覚なんてありませんでした。 十五年前に優しくしていただいた感謝と、懐古の気持ちから、あなたを応援していたにすぎません。 ためしに、『ファン』について調べてみました。 ファナティックの略、狂信者です。 私は狂ってなどいません。 あんなふうに一人で勝手に逆上する女とは違います。
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