十五年を経て

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その時、一人の女性が私の肩を叩き、すぐ近くの座席を指しました。 席を譲ってくれたようなのです。 彼女はサングラスにマスクをかけ、ニット帽をかぶっていました。 そして、明らかに妊婦とわかるほどお腹が張り出ていました。 「私、次の駅で降りますから」 そう彼女が小さく呟いた瞬間、私にはわかりました。 その澄んだ声。 あれは、あなただったんですよね? 妊婦が松葉杖をかばったことで、 酔っ払いの男性は決まり悪そうに顔をそむけ、 舌打ちをして隣の車両へ移動していきました。
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