第一次系外惑星移民船団出立式典演説全文

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輝かしい繁栄の一方で、人類の歴史は反省に彩られていたと言えます。 高度な科学技術を手に活動を広げ、ひたすら豊かさを追い求めた人類は、これまでに数えきれない過ちを犯してきました。 工業化や経済発展を優先するあまり、地球環境の保護は疎かにされました。都市開発が自然を破壊し、莫大な人口を支えるための過度な耕作が地力を奪いました。無計画な資源の採掘は枯渇に繋がり、乱獲が多くの種を絶滅へと追いやりました。直接、間接に人類が滅ぼした種は、数百万種に上ると言われています。生命の宝箱と呼ばれたこの惑星の生態系を回復不能なほどに破壊してしまったのです。 自然保護に目が向けられるようになったのは、僅か1000年程前のことです。 草の根から始まった環境保護運動は、やがて世界を動かす大きなうねりとなりました。 進歩を捨ててでも環境保護を優先する。今となっては考えられないことですが、そうした政策が各地で取られたのは、600年程前のことです。しかし、時は既に遅く、破壊された自然環境が元に戻ることはありませんでした。 その後には、人類こそが地球の害悪だとして、人類が絶滅すべきだという考えが真面目に議論された時代もありました。しかしそれは、種の存続という生物の至上命題に反するものでした。 停滞と諦めの中で、世界は混沌に包まれました。未だに、当時の傷痕を完全に消し去るには至っていません。 悲しいことですが、4度の世界規模の大戦を経験してなお争いはなくならず、世界は憎しみに溢れています。先の大戦では、一度は手放したはずの核の炎が世界中に広がり、多くの命を奪いました。 人種、宗教、文化の違いによる差別は根強く残り、同じ人間同士ですら、分かり合うことができていないのです。
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