望んだものはただ、ひとつ ~サチュアの罠~

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 側妃達との夕食も終わり、揃って大きな湯舟に浸かっている時だった。  アルフレッドの膝の上に座り、その逞しい胸に頭を預けていたシェリダンであったが、そういえば、と思い出したように頭を上げてアルフレッドの深蒼の瞳を見つめた。 「どうした?」  非常にゆったりとしていたのに、急に真剣な瞳でアルフレッドを見るシェリダンに内心首を傾げる。 「アルにお願いがあるのです」  非常に、嫌な予感がした。時期が時期であることに加え、シェリダンの“お願い”は大概アルフレッドがあまり叶えたくないような願いばかりだ。元々物欲のないシェリダンは物を強請ることはないし、自分のために環境の変化を求めることもない。シェリダンの“お願い”は必ずと言ってよい程誰かのため。さて、今回は何であろうかと目まぐるしく頭を働かせながら、アルフレッドはシェリダンに続きを促した。 「明日の朝議で視察に行く場所が決まったら、リオンに会いにジェラルド宰相の執務室に伺いたいのです」  それで固まったのはアルフレッドだけではなかった。薄布の向こうで控えていたエレーヌを含む女官達も一斉に固まる。 (妃殿下……私の言葉はそうとられたのですね)  もはやエレーヌは乾いた笑みを浮かべることしかできない。もう口から出てしまった言葉はなかったことにはできないのだ。エレーヌも、シェリダンも。 「……駄目だ」 「っ……、駄目、ですか?」  けぶるような菫の瞳が悲しそうに揺れているのは心苦しい。リオンに会いたいという本当の理由も、アルフレッドはわかっている。しかしそれを許容できるかといわれると、答えは否、だ。
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