望んだものはただ、ひとつ ~サチュアの罠~

2/11
403人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
「妃殿下、紅茶とマドレーヌをご用意いたしました。どうぞお召し上がりくださいませ」  エレーヌが気を使ってシェリダンの好きな甘い紅茶と甘い菓子を用意してくれるが、どうにも気が乗らない。  膝の上でじゃれついていたレイルを抱き上げて、シェリダンは立ち上がる。窓に近づいて、ほんの少しだけ隙間を作り下を覗き見た。しかしそれはすぐに分厚いカーテンに遮られる。 「いけません妃殿下。妃殿下のお姿を民が見れば興奮して何をしでかすかわかりませんし、善人ばかりとも限りません。さぁ、どうぞこちらへ」  シェリダンの手を取って、エレーヌはソファへ促した。控えていた女官達がもう一度隙間なくカーテンを閉める。思わずため息を零してしまった。  今は王と王妃共に謁見の予定は入れていない。ボン・ナキュイユが終わるまでは謁見など、謁見者が城に辿り着けないのだから行えるはずもなく。執務官達は仕事にならないためにほとんどが公休扱いだ。アルフレッドもいつもはできない雑務を今のうちに片付けるつもりらしく、執務室に籠っている。  要するにシェリダンは退屈なのだ。そんなことを思ってはいけないとわかっていても、今まで仕事仕事で生きてきたシェリダンは、急に何もしなくていい時間を幾日も与えられても、どう過ごしたらよいかわからない。アルフレッドの仕事を手伝おうにも、本当に細々したことを片付けているようで、ああいうものは下手に当人以外が手伝うと余計に手間が増えてしまうこともシェリダンは経験上理解していた。 「……夜になったら中庭に出ても良いですか?」  見物者がいなくなる夜ならばとシェリダンはエレーヌに問うが、エレーヌは申し訳なさそうに眉を下げて首を横に振った。 「ボン・ナキュイユの間はどうかお外へ出られませんよう、伏してお願い申し上げます。厳重な警備体制を敷いておりますが、不届き者が潜んでいないとも限りませんから」  サーヴェ公国の一件以来、エレーヌをはじめとする女官達も、護衛を司る近衛達も、政治を取り仕切る高官達も過度な警戒を示している。もうシェリダンに万が一など起こしてはならない。その思いはシェリダンにもよくわかっている。ゆえに強く出られない部分もあった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!