望んだものはただ、ひとつ ~サチュアの罠~

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 夜までレイルと遊び、執務を終えてアルフレッドが迎えに来て共に夕食の場へと向かう。漸く私室から外へ出られると密かに心を浮き立たせていたシェリダンであるが、移動の間も常より多い近衛達に囲まれていたために、やはりどこか息苦しい。それが王族のさだめだと分かっていても、一瞬で良いから表の風にあたりたいと願ってしまう。 「窮屈か?」  夜の寝台でシェリダンの髪を撫でながら、アルフレッドはそう問いかけてきた。王都がボン・ナキュイユで賑わっていても執務があるアルフレッドに余計な気を使わせてしまったとシェリダンは俯く。 「……申し訳ございません」  すっかり俯いてしまったシェリダンの頤にアルフレッドは指を添えて上向かせる。ちゅっと軽い口づけを二度、三度と繰り返した。 「責めているわけではない。ただ、こうも長く執務もなく外へも出ない生活はしてこなかっただろうからな。まだ初日とはいえ、時間を持て余しているのだろう?」  そう、ボン・ナキュイユは始まったばかりだ。これから一週間は王妃の私室と今いる寝室に完全監禁状態になる。 「明日、少しの間だけ城下を歩くか?」 「え?」  予想外の言葉にシェリダンは大きく目を見開いてアルフレッドを凝視した。 「……しかし、アルが城下に行かれては大変なことになるのでは?」 「勿論変装はするし、市民に扮した護衛も連れて行く。長くても一亥が限度であろうが、ずっと籠っているのも退屈だ。それに、俺もボン・ナキュイユを楽しみたいからな」  護衛の者達は悲鳴を上げそうだが、それはとても甘美な誘惑だった。シェリダンもボン・ナキュイユを経験したことがないわけではないが、一緒に行けるというなら、アルフレッドと歩きたい。たった一日、それも一亥だけだったとしても魅力的な誘いだった。 「行っても……いいのですか?」  言葉は不安げだが、シェリダンの表情は雄弁に行きたいと訴えていた。そんな、どこか子供っぽい様子にアルフレッドは微笑む。どうにも自分の伴侶は可愛くていけない。 「明日の午前ならばまだ人は比較的少ないだろう。ただし、シェリダンも変装するのだぞ」 「はい!」  こんなにウキウキと心を躍らせたのはいつぶりだろうか。早く明日にならないかと願いながら、シェリダンはアルフレッドの腕に包まれて眠りについた。
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