望んだものはただ、ひとつ ~サチュアの罠~

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「アル、見てください。マーティ伝統の絨毯があります」  シェリダンが指さした先には友好国であるマーティ国の伝統である重厚な絨毯が売ってあった。糸を深みのある色に染め上げて、美しい模様が浮かび上がるように織り上げられている。 「珍しいな。あれ程のものがボン・ナキュイユとはいえ他国の市で売られるとは」  重厚な絨毯は最も知られる柄で、それゆえにそれなりに値の張るものでも皆が買い求めている。そんな様子を微笑まし気に眺めながら、二人は歩き出した。  珍しくも安価な小物のテントや、各国の伝統食を売っているテントなどを眺めながら歩く。残念なことに食べ物や飲み物は買っても良いがその場では口にせず、城に帰って毒見をして安全を確認してからでないと駄目だとエレーヌに口酸っぱく言い含められたので買い食いはできない。飴細工の菓子やパンに野菜やチーズを挟んだものなど、美味しそうなものはたくさんあって、食べてみたいとついつい視線を向けてしまう。そんなシェリダンの様子をアルフレッドはクスリと笑いながら眺め、腰を抱いて先に誘った。  はぐれないよう、しっかりと寄り添いながら歩いていく。キョロキョロと視線を巡らせて、シェリダンは一つの露店で足を止めた。吸い寄せられるように展示されている物から目が離せない。そこには細い飾り紐が飾られていた。細かに織られているその紐は先端付近に小さな水晶の玉が三つ連ねられており、その先は房になっていた。  立ち止ったシェリダンの視線の先を追い、アルフレッドはシェリダンを促してテントに足を踏み入れる。数多くの飾り紐を扱っているのであろうこの店は、それなりに値の張るものもあったが、それ相応の良い品が揃っていた。  シェリダンがずっと見つめていた飾り紐を手に取る。質が良く、手触りも申し分ない。付けられている水晶も、イミテーションなどではなく、本物の水晶のようだった。  アルフレッドはシェリダンの瞳と同じ菫色の飾り紐を手に取る。同じようにシェリダンも深蒼の色をした飾り紐を手に取った。  何も言わなくても、互いが何を考えたのか理解できる。二人は視線を合わせてクスリと笑むと、お互いの飾り紐を交換して、菫の飾り紐をシェリダンが、深蒼の飾り紐をアルフレッドが買う。袋に入れてもらい、その店をあとにした。
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