望んだものはただ、ひとつ ~サチュアの罠~

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 楽しい時が過ぎるのはあっという間で、すでに約束の一刻を過ぎようとしていた。甘い香りのする菓子を買って、人が多くなる前にと城に戻る。 「おかえりなさいませ」  心配げに待ち構えていたエレーヌ達にいつもの衣装へと着替えさせてもらって、こちらも着替え終わったアルフレッドの促すままに鏡台の前へ座る。優しく髪を櫛梳られて、複雑に結い上げられたのちに深蒼のサファイヤの髪飾りを付けられた。  ソファに座れば先程ボン・ナキュイユで買い求めた菓子が出される。菓子は念のため毒見をされてからシェリダンとアルフレッドの前に出された。それを口に含めば、ふわりと蜂蜜の甘さが口いっぱいに広がる。思わずシェリダンの笑みが零れた。  立ち上がり、これから執務に向かうアルフレッドをシェリダンは引き留める。 「アル」  その手には先程買った菫の飾り紐が握られている。シェリダンはアルフレッドに抱き着くようにして飾り紐を通し、既に帯に付けられていた飾り房と合うように結んだ。同じようにアルフレッドもまたシェリダンの帯に深蒼の飾り紐を結ぶ。色の違うおそろいの飾り紐にシェリダンの瞳が嬉しそうに光った。アルフレッドはシェリダンの頤に指をかけて上向かせる。そしてそっと唇に己のそれを重ねた。チュッとリップ音が響く。 「行ってくる。お前は菓子を食べながら大人しくしていろ」 「はい。行ってらっしゃいませ。お夕食の時に、お待ちしております」  アルフレッドの首に腕を回して、シェリダンは自ら口づけを贈った。アルフレッドはシェリダンの華奢な腰に手を回して抱きしめながら口づけを幾度もする。離れがたいが、執務は行わなければならない。アルフレッドはそっとシェリダンを離した。執務室に向かいながら、腰に巻かれた飾り紐の房を片手で弄る。  おそろいなど陳腐なものだと思っていたが、これほどまでに嬉しさをもたらすのかと驚く。早く夜にならないものかと思いながら執務室の扉を開いた。
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