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「今日は札幌から有名な先生に来てもらったんだ」
そう言いながら女性に椅子を勧め、前園自身は診察室の隅の方にパイプ椅子をおいて腰掛けた。
本来なら前園が座るべき椅子を神藤に勧めてくるから、神藤は仕方なくその椅子に腰を下ろした。
「今日も体中痛いかい?」
神藤がそう訊くと、女性はうつろな瞳を揺らしながら小さく息を吐いた。
その震える息は肯定だろう。
「私は精神科医の神藤です。ずっと痛みで苦しんでたんだね」
そう訊ねると、少女は瞳を潤ませながら口唇を噛み締めた。
「誰も…信じてくれない。痛いのに…異常は無いって。痛くて仕事もできないの……」
少女はそうつぶやきながら、大粒の涙を流し始めた。
「今も仕事に就いてるの?」
「接客業……」
「そうか。それはつらいな。無理にでも笑ってなきゃいけないしな」
「もう立ってることもできなくて…昨日、早退して…休みをもらったんです」
それを聞いた神藤は壁際に設置されていた診察台に視線を向けた。
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