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「少し横になるかい?」
そう訊くと、少女は首を横に振った。
「一度横になったら動けなくなるんです」
「じゃあ…このままで話そうか。キミの身体の痛みの事だ。まだ…検査の内容が充分じゃないからはっきりしたことは言えないが、膠原病やリウマチの可能性もある。
他にも、なかなか検査の結果に表れない病気も今ではたくさんあるんだ。その可能性も考えて検査してみないかい?
キミも何かの病気を疑ってるんだろう?」
彼女は神藤の言葉に目を見開き、再び目を伏せたかと思った次の瞬間、小さく頷いた。
「線維筋痛症って病気をネットで見て…疑ってたんですけど……。でも、膠原病って…難病じゃないんですか?私が…そんな病気なはずない……」
線維筋痛症とは以前、レディー・ガガが罹患していると公表した病気だ。全身に激痛があり、しかし検査をしても異常は見つからないのだという。
そして膠原病だが、これはひとつの病気を指すのではなく、共通する性質の病気を総称する言葉である。本来体外から侵入してくる異物を攻撃する免疫が、自身の身体を攻撃してしまうために起こる自己免疫疾患だ。
「なぜそう思うのかな?」
「だって…私、どこにでもいる普通の人間だし……。難病なわけ…ないです」
「特別な人が難病になるわけじゃない。キミの身体の痛み自体が特別なんだ。キミくらいの若い人が毎日痛みを感じている事が普通じゃない…と、キミも最近知ったんだろう?」
神藤がそう言うと、少女は口をつぐんでしまった。
「難病と言われる病気は50種類以上ある。それから、指定難病と言われる病気は300種類以上もあるんだよ。その多くは早期発見、早期治療を試みれば進行を遅らせる事も可能かもしれない。
キミが言う、線維筋痛症だって患者数こそ多いが、難治性の高い病気で、世界中に苦しんでいる人がいるんだ。日本の患者の多くが指定難病に加えて欲しいと願うほど、経済的にも精神的にも追い込まれるんだ。
もしもキミが今感じている身体の痛みが気持ちの問題だとしても、その原因ははっきりさせるべきだと私は思うよ」
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