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当然のように青年はその隣の席に腰掛ける。
「今度、登季子さんも一緒に食事に来ませんか?うちの母は暇さえあれば登季子さんに料理を教わってるそうなので」
「それは初耳だな……。詩音くんのお母さんだって料理上手だろう?」
「うちの母は和食が苦手なんですよ。味付けが難しいって」
「そうか。登季子さんもあれでいて面倒見がいいからな。そのうち家で料理教室でも開き始めるんじゃないかと少し心配だが」
そう言いながら笑っていると、青年の表情が急に変わる。
「今はその方が気もまぎれるかもしれませんよ?それに…神藤先生もまだ病院を辞める時ではなかったんじゃないかと僕は思ってます」
そう言った後、彼は立ち上がり、出入り口の自動ドアの向こうに視線を向けた。
「彼女にここまで想い入れる理由を考えた方がいいかもしれませんね」
そう告げた後、彼は微笑みを浮かべて待合室を去って行った。
気付いていても気付かないふりをしてしまうのは、自分の事だからなのかもしれない。
他人の事なら客観的に見れるが、医者とはいえ人間だ。
自分の心の問題と向き合える程、できた人間ではない。
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