暴露

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「私の許容範囲を越えちゃったんだからもう殺すしかない」 カホはそう答え、健太郎の喉元にくっきり線ができるほどナイフを押し付けた。これ以上力を入れたら血が出るであろうギリギリのライン。 「じゃあもっと面白い事しようよ。どうせなら奈落の底に突き落としてやりたいじゃん。あんたがそいつらを殺したって、どうせそいつら“被害者”として報道されるんだよ? どうせなら加害者として名前と顔とそいつらの身内も含めて社会に大きく取り扱ってもらったら?実刑にならないような罪でも犯罪は犯罪なんだし、いじめひとつで親族にまで迷惑をかける大問題になるんだって、社会に訴えてやらないと」 それができるなら最初からやっている。その方法がないから自分で手を下してきたのに、いったいこの女は何を企んでいるのだろう。 カホはそう思いながら、隣で息絶え絶えになって両親に抱きしめられている和泉を見た。 約束された安定した生活を手に入れる和泉が憎くて仕方ない。夢も希望も、青春時代のあの一日ですべて失ってしまったカホにとって、これから続く未来は地獄に等しい。 仕事も住む場所も一時的なもの。家族とはあれから一度だって連絡を取っていない。 この世界にカホの味方と呼べる者は美園しかいない。 彼女の言葉を安易に信じることはできなかった―――。
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