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「大変だったみたいですね……。お悔やみ申し上げます」
小太りの男性が言った。
「ありがとう。もうだいぶ気持ちの上では落ち着いてきたんだ。仕事も辞めたし、な」
「え…大学病院を辞めたって事ですか?」
「ああ。人の闇と向き合うには、自分の闇が深すぎてな……」
「そう…ですか。でも、私としてはまだまだ神藤先生から勉強したいことがいっぱいあるんですけどね」
そう言った後、小太りの男性は前方で待ちくたびれている女性の姿をチラッと見ると、
「今、ちょっと対応しきれない患者を抱えてまして。もしよかったら、先生のご協力を仰げませんかね?私には荷が重くて」
声を落としてそう言った。
「まあ…困っているならもちろん力になるよ」
そう答えた男性に、小太りの男性は名刺を差し出した。
「数年前に田舎町で開業したんです。週末には札幌に帰ってくるような生活なんですけど、もしよかったら気分転換も兼ねて来てください。酒でも一緒に飲みましょう」
男はそう言った後、小さく一礼して女性の元へと走って行った。
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