1400人が本棚に入れています
本棚に追加
/231ページ
2. 新たなる計画
日の入りまではまだ十分時間がある。
けれどここ連日は雨ばかりが続いていて、空はどんよりと曇っているため薄暗い。それはまるで、私の憂鬱な心を写し出しているかのよう――。
だが私の心の内など知りもしないハンナは、私の髪を結い終えると鏡の向こうで誇らしげに微笑んだ。
「ほら、終わりましたわ! 本当にお美しい……!」
その声に鏡をじっと見つめれば、確かにそこには文句のつけようもない美しい少女の姿が映っている。
深紅のドレスに身を包み、首には大粒のルビーがはめ込まれたチョーカー。耳飾りはそれとお揃いで、しずく型にカットされたルビーが照明の灯りを反射しキラキラと輝いている。
そんな鏡の中の私に、ハンナはただただ頬を緩ませた。
「ああ! お嬢様が夜会に出席なさるなんて何ヵ月ぶりでしょう! ファルマス伯爵も、お嬢様のお美しさに心打たれること間違いなしです!」
確かにハンナの言うとおり、夜会に出席するのは本当に久しぶりだ。なぜなら私はウィリアムとの接触を避けるため、普段は極力屋敷に閉じこもっているのだから。
けれど状況は変わってしまった。このまま閉じこもっていたらお互いの両親にあっという間に結婚させられてしまうだろう。それだけはどうあっても避けなければならない。
だから私は夜会に出席することを決めた。ウィリアムが出席するであろうこの夜会に。
「ハンナ……言ったはずよ。彼と結婚するつもりはないと」
「ええ、ええ、わかっています。けれど、けれど……! ファルマス伯爵はお茶会でのお嬢様の態度を見ても縁談を取り下げなかった強者ですよ! あの方はきっとお嬢様の心根のお優しさを見抜かれたのですわ! それなのにお嬢様ときたらこの期に及んでまだあの方のお心を弄ぶつもりだなんて、なんと罪深いことでしょう!」
最初のコメントを投稿しよう!