1.カーラと兄と王太子

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「それよりクリス。その呼び方はよしてくれないか。俺のことは名前で呼べと、前から言っているだろう?」 「そういう訳には参りません。殿下を名前で呼ぶ弟らが異常なのです」 「ウィリアムも俺を名前で呼ぶぞ?」 「彼は――……とにかく、私は結構ですから」  クリスの返答に、アーサーは残念そうに眉を下げる。  ――今まで何度このやり取りを繰り返しただろう。けれどクリスは決して首を縦に振ろうとしない。  アーサーは深いため息をつく。 「クリスは本当に素直じゃないな。さっきの話もだが……そうだ、こう言ったらいい。大事な大事な妹をウィリアムに渡したくない、とな」 「――ッ!」 「そんなに怖い顔するなよ。家族を愛するのは別に悪いことじゃない。――と、それよりも……」  アーサーは思い出したようにカーラの方へ歩み寄る。まるで子供が悪だくみを考えているかのような笑みで、カーラの瞳を覗き込んだ。 「カーラ嬢の想い人が我が親友ウィリアムというのは本当かな? 彼が婚約したというのも?」 「――っ」  するとカーラは先ほどまでの悩みっぷりが嘘のように、途端に顔を赤らめる。 「アッ、アーサー様……⁉ ――えっと……その……」 「おや、すまない。驚かせたか」 「い――いえっ、そんな……そんなことはありませんわ!」  しどろもどろになるカーラ。  そんな妹の姿に、エドワードとブライアンは呆れかえる。 「おいおい、お前、気が多すぎるだろ」 「ウィリアムのことが好きなんじゃなかったのかよ」 「も、もちろんわたしはウィリアム様一筋ですわっ! でも、それとこれとは話が別ですのよ!」 「はぁ?」 「別ぅ?」
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