4.波乱の予感

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 4.波乱の予感

 エドワードとブライアンを置き去りにして、アメリアは一人きりで森の小道を進んでいく。  木々の隙間から午後の陽気に照らされてキラキラと輝く湖、その周りで風に揺れながら光を散らす草花――小鳥のさえずり、木の葉の擦れる音――。  澄んだ空気が肺をいっぱいに満たしていく。年中通して枯れ葉の積もった地面はとてもふかふかで、なんだかとても懐かしいような――切ないような気持ちが湧き上がる。  ――そうだわ、そういえば昔……こんな森でよくあの人と……。  それは本当に遠い遠い昔。何も知らない幼気(いたいけ)な少女だった自分――。  手をつないで歩いた。日が暮れるまで一緒に過ごした。時間を忘れて喋り合って、たわいない日常が楽しくて、私の名前を呼ぶその声が愛しくて……。  愛していた、愛していた。――心の底から愛していた。  彼以外何もいらないと……彼のためならば何でもできると、確かにそう思っていた。彼の幸せを……彼と幸せになることを心から願っていた。  家族が無くても、お金が無くても、彼さえいれば生きていられた――本当にそれだけだった。――なのに……。  幸せだった過去。大切な思い出。それがいつの間にか消し去りたい、思い出したくない記憶になっていた。なぜなのか、どうしてなのか、私の何が悪かったのか。最近はそんなことばかり考えてしまう。  けれどそれでも足を止めるわけにはいかない。ウィリアムは私を愛さないと誓ったけれど、それでも人の心は変わってしまう。いつかきっと彼はその誓いを破り、そのとき私は彼の前から姿を消すことになるだろう。だからそれまでは……ほんのわずかな間だとしても、私は彼の隣で偽りの笑顔を浮かべるのだ。
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